『劇場における公共性』
「アメリカ・リージョナルシアターにおける公共性の発見
−日本における地域演劇政策の発展のために 2」
2009年8月18日(火) 19時〜21時
青野 智子
(諏訪東京理科大学講師)
《所 感》
リージョナルシアターそれぞれの劇場が「自分たちの劇場である」という認識を持ってもらうためにあの手この手で努力している。アメリカでは劇場自体に足を運ぶ楽しみ、定期的に習い事のように舞台を観に行く習慣があるのに対し、日本にはこのように劇場を身近に感じてもらう意識そのものがまだ生まれていないように感じる。市民が「自分たちの劇場」という意識の醸成に至ったリージョナルシアターの歴史から、私たちは学び応用していく必要がある。
記録:鶴野喬子(世田谷パブリックシアター研修生)
はじめに
問題意識として日本の現代意識の不振があげられる。劇団は演劇の創造主体であるがしかし財政、人材的にも脆弱な基盤故に、離合集散を繰り返し、劇場は発表のための「貸し小屋」、「貸し館」で、演劇創造の積極的主体となっていない。それに対してアメリカ演劇も、かつて、日本の現代演劇と同じような状況にあったが、1960年代以降盛んになったリージョナルシアター運動がそれを打開したという歴史的経緯がある。アメリカのリージョナルシアターの経験は、日本の地域演劇文化や演劇文化全体を活性化するための、手がかりとなるのではないか。
従来、日本の現代演劇はヨーロッパへのあこがれを基調としてきたが、優れた演劇作品そのものがもつ公共性に依拠したヨーロッパ型の公共劇場を、そのまま日本に移植しようとする試みは、挫折せざるを得ない。アメリカでは、日本同様、演劇が「芸術」として成立していなかったにもかかわらず、分厚い演劇文化を実現していることから、アメリカのリージョナルシアターが担っている公共的役割から学べることがある。
リージョナルシアター概観
まずリージョナルシアターの特徴として
- プロフェッショナルなスタッフ・俳優による自主制作の演劇興行を、主要な活動として
いること
- ブロードウエィから相対的に独立した演劇的価値の実現を標榜していること
- ニューヨーク外の一地域を活動拠点とし、地域住民の支持を基盤として成立していること
- 特定個人の才能に依拠した一過性の興行ではなく、継続を前提とした活動を展開する組織であること
- 非営利法人という組織形態をとり、興行収入のほかに、助成金や寄付金を収入源としていること
- 歴史が古い主要なものは60〜70劇場、小規模なものも含めれば200〜400近く存在すること
リージョナルシアターが前提としている文化的背景として、ニューヨークを中心としたブロードウェイ演劇街の発達による商業演劇の隆盛、政府による文化への公的支援に対する強い不信感がある。
リージョナルシアター成立の歴史的背景としては、中央一極集中による演劇の創造環境の行き詰まりがあり、それらを打開しようとする動きが出てきた。その一つがリージョナルシアターである。公演はブロードウェイの巡業のみという地方における演劇の創造環境の空白、戦後アメリカにおける文化、そして演劇への関心の高まりがリージョナルシアターの誕生へと繋がった。
リージョナルシアターが定着したことの意義については、ブロードウェイへの一極集中ではなくなり全国的な観劇人口の増大、近年ではリージョナルシアターで初演されたものがブロードウェイで上演されるという演劇作品の創造環境の充実、演劇人の雇用機会拡大・演劇作品の上演機会拡大という演劇に関する全国的な人材・演目プールの確立があげられる。