講座の内容記録 2009

地域における劇場
『地域社会と芸術』
Vol.2「アートなまちづくり」
 
2009年11月25(水) 19時〜21時
仲原 正治
(横浜市役所職員)

《所 感》

本年、開港150周年を迎えた横浜。クリエイティブシティ・芸術文化創造都市として、歴史的な財産である建築物や街並みを活かす都市デザイン戦略とともに、芸術や文化のもつ「創造性」を活かした企画によって、新たな価値や魅力を生み出す都市づくりを進めている。今回は、その「アートなまちづくり」について、時には福祉に関する業務の傍らボランティアとして、また、実際に業務として約20年携わって来られた仲原さんからお話を伺った。

街の持つ歴史を活かす、新たな街を形成する、地域の問題解決に取り組む…ハードとソフトの両面からそれぞれのさまざまな課題に対して、横浜市が行うアートを用いるアプローチはまちの活性化に結びついてきた。多くの実例を挙げながらお話いただく中で繰り返し述べられていたのは、プロジェクトや建物内の活動で完結するのではなく、積極的に「街へ出る」、そして「地元の人たちと一緒になって取組む」こと。創造都市の目標は「すべての市民が創造的になること」である。そのために行政・民間企業・NPO・ボランティア・市民がそれぞれ連携し、「アートなまちづくり」を推進してきた横浜市の歩みと取組みは、経済性による発展が難しくなってきた現在、今後のさまざまな地域でのまちづくりを考える上でも重要である。
記録:橋本旦子(学習院大学大学院人文科学研究科身体表象文化学専攻博士前期課程)
はじめに
今の時代(21世紀)は、非常に大きな転換期であり、いわば「ないものがない」時代。終戦後の物資がない時代から、高度成長期・バブル経済期を経て、今の若い世代の人たちは、物については何不自由なく過ごしてきた。しかし今年の統計によると世界の中で貧困率第4位という現実に直面している。(貧困率:平均賃金の2分の1以下の所得で生活する人の割合)日本では約15%、100人に15人が平均賃金の2分の1以下の生活をしていると言われている。日本の経済、また地球環境の変化も含めて、非常に大きな転換期にある。

もはやこれ以上の繁栄が望める時代ではなく、地球環境もますます悪化していく中で、いかに「生活」を豊かに作っていくか、その時に、一番我々にとって必要になってくるものは何か。「食べられる」「餓えなくて済む」ということの次にあるものは、「何でも買えて何でも楽しめる」という物質的、刹那的なものではなく、もっと「自分たちが生きている喜びをつくる」ものであるべきではないか。そこで横浜市は「文化と芸術」、「クリエイティブシティ」という考え方に行き着いた。現在の閉塞感のある時代を変えていくためには、今まで優先的に考えてきた価値観である効率性や経済性の論理で物事を考えていくだけでは、まったく成り立たない時代になってきている。文化や芸術の持つ創造性をいかに発揮して、現在、世界が抱える地球環境の問題、コミュニティの崩壊など、さまざまな課題に対応していけるかが求められている。こうしたことを進めていくためには、変化に敏感であり、創造性豊かなアーティストやクリエーターにいろいろな事を考えて提示してもらう、ある面においてはそういう人たちの価値観を大切にしていくことができる社会を作っていきたいと考えている。

今回は「アートなまちづくり」と題し、今、街の中に夢とか希望とか心の豊かさといったものを作っていくために、横浜が何をしているのかということを、少し時代を遡りながら、お話しさせていただきたい。
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