ミュージカル『カラフル』稽古場レポート

音楽が優しく照らす、時にシビアな〈ぼく〉の旅路

 

ミュージカル『カラフル』稽古場より

 

 

とある過ちを犯して死に、二度と生まれ変われない魂となったはずが、“抽選”に当たって再挑戦のチャンスを得た〈ぼく〉。前世の記憶を取り戻し、自らの過ちの大きさを自覚すれば“輪廻のサイクル”に戻れると天使から告げられた彼は、自殺を図った14歳の少年・小林真の体に“ホームステイ”することになって……?
見ず知らずの真として生きるなかで、様々な気付きを得ていく〈ぼく〉の旅路を描いた森絵都の小説、「カラフル」がミュージカル化される。
脚本・作詞・演出を担うのは、海外産ミュージカルの翻訳上演で高い手腕を発揮する一方、オリジナルミュージカルの創作にも意欲的に取り組んでいる小林香。ベストセラー小説の舞台化であると同時に、小林の新作としても注目を集めるミュージカルだ。

 

始まったばかりの稽古場を覗くと、そこには登場人物それぞれの状況や心情について、深く広くディスカッションを重ねる小林とキャスト陣の姿があった。
例えば、真と家族の関係性。小林は、演じる当人たちに「この台詞はどんな気持ちで言ってると思う?」と尋ねるだけでなく、「皆さんはどんな思春期を送ってましたか?」と、全員を巻き込んで解釈の可能性を広げていく。
また例えば、真の初恋相手・ひろかについて。「“パパ活”するひろかの気持ち、分かる人います?」との問いかけから始まったディスカッションは、教育現場が抱える問題や、昨今話題の“トー横キッズ”にまで及んだ。
性別も世代も異なるキャスト陣が各々の体験談と意見を披露し合うことで、人物と物語がリアルに、色濃く立ち上がっていくのが分かる。

 


ミュージカル『カラフル』稽古場より

 

原作が産経児童出版文化賞を受賞していることや、「せたがやこどもプロジェクト2023」の一環として上演されることから、シンプルでキラキラとしたファミリーミュージカルを思い浮かべがちな本作。
だが決してそうでないことは、ここまでに登場した“自殺”や“パパ活”といったワードからお分かりいただけたことだろう。とはいえ、原作における天使・プラプラの存在や〈ぼく〉のユーモアあふれる語り口がそうであるように、時にシビアでもある現実を温かく照らし、子どもでも受け取りやすくするものとして、ミュージカルには音楽がある。
稽古場で聴いた大嵜慶子による楽曲はその役割を豊かに果たすものばかりで、とりわけラストナンバーは、『カラフル』というタイトルの意味が頭ではなく心に迫ってくるような名曲。本番ではきっと、客席にいる老若男女を優しく、かつ力強く包み込んでくれることだろう。

 

文=町田麻子


<公演情報>

『公文協アートキャラバン事業 劇場へ行こう3』
せたがやこどもプロジェクト2023《ステージ編》
アミューズ×世田谷パブリックシアター
ミュージカル『カラフル』

2023/7/22(土)~8/6(日)
世田谷パブリックシアター

【原作】森絵都「カラフル」(文春文庫刊)
【脚本・作詞・演出】小林香
【作曲・編曲】大嵜慶子
【出演】鈴木 福 加藤梨里香 百名ヒロキ 石橋陽彩 菊池和澄
彩乃かなみ 川久保拓司 / 川平慈英 ほか

公演詳細

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