芸術監督・白井晃

アート・ファーム宣言

長引くパンデミックもようやく収束の兆しが見えてきました。
この三年間、劇場文化も多くの困難を強いられてきましたが、改めて劇場が担うべき任務を考える大きな契機になったのも確かです。公共劇場として、世田谷パブリックシアターが担うべき役割とは何か。

「劇場は広場」は、世田谷パブリックシアターの開場当時からの大きな理念です。人々が集まり、人々が語らい、人々が歌い、人々が踊り、人々が物語る。私たちは、もう一度、劇場がその為の場所であることを思い出さなくてはなりません。
私たちは、一人では生きてはいけません。他者との関わりの中で、初めて存在することができる。その関わりを作る機能を劇場は持っています。
表現する者がいて、初めて芸術は存在します。しかし、表現する者だけでは決して存在することはできません。その表現を鑑賞する人間の心があって、初めて意味が生じます。そして、鑑賞する者は、表現を通して新たな自分を発見します。その「生な」相互作用を作る場が劇場であると考えます。

芸術は、人々の心に変化を与えます。中でも舞台芸術は記憶の芸術です。私たちが忘れていく過去の事象を思い出させ、未来に語り繋ぐ働きを持っています。そのためにも、劇場は新たな芸術を生み出す畑でなければならないと思います。人々が集う場所を作り、人々が芸術のための畑を耕し、芸術の種を蒔き、育てあげ、やがては花が開いて実を成していく。

世田谷パブリックシアターが、人々の心の拠り所となり、新たな芸術を生み出す農園(アート・ファーム)であることを宣言したいと思います。

ご支援のほど、何卒よろしくお願いいたします。

世田谷パブリックシアター 芸術監督 白井晃

世田谷パブリックシアター芸術監督

白井 晃(しらい あきら)

京都府生まれ。
早稲田大学卒業後、1983~2002 年、遊⦿機械/全自動シアター主宰。
演出家として独立後は、ストレートプレイから音楽劇、ミュージカル、オペラまで幅広く手掛ける。
世田谷パブリックシアター開場時より『こわれた玩具』『アナザデイ』『ラ・ヴィータ~愛と死をみつめて~』『ピッチフォーク・ディズニー』『宇宙でいちばん速い時計』などを上演。
当劇場の企画制作公演では、『偶然の音楽』音楽劇『三文オペラ』『ガラスの葉』『マーキュリー・ファー Mercury Fur』『レディエント・バーミンRadiant Vermin』ほか多数演出。
第9・10回読売演劇大賞優秀演出家賞、05年演出『偶然の音楽』にて湯浅芳子賞 (脚本部門)
、12年演出のまつもと市民オペラ『魔笛』にて佐川吉男音楽賞、18年演出『バリーターク』(KAATとの共同制作)にて小田島雄志・翻訳戯曲賞などの受賞歴がある。
2014年4月、KAAT神奈川芸術劇場アーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)に就任、2016年4月~2021年3月、同劇場の芸術監督を務めた。

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