『世田谷パブリックシアターの演劇ワークショップ』
C:演劇ワークショップをワークショップで考える
「いいWSと、そうではないWSの差を考えるWS」
2011年1月8日(土) 10時〜17時
富永 圭一
(世田谷パブリックシアターファシリテーター/abofa代表)
《所 感》
はたして、いいワークショップ(以下WS)と、そうではないWSの差とはなんなのだろうか。悪いWSではない、そうではないWSと比較する視点で本WSははじまった。午前のWSを体験した後で参加者は「いいWS」について議論をした。ファシリテーターと参加者、参加者同士の間でもWS像が大きくかけ離れていたことに驚かされた。それぞれが「いいWS」だと思うものも違うし、そもそも、WSというものに対しての考え方もバラバラだった。「いいWS」とは当事者間の「いいWS」の間に揺らいでいるのではないかと思う。つまり、絶えず何が「いいWS」なのかを語り合う場が必要であり、そういった場がなければ「いいWS」は生まれないのではないかと感じた。今回は4人のファシリテーターが登場する。ファシリテーターも参加者も含めて議論をする今回のような人の集まりの場の必要性を「いいWS」を考える上で強く感じさせられた。
記録:渡辺タケシ(青山学院大学社会情報学研究科博士前期課程在学)
※本記録は、講座の記録をもとに、講師による加筆を加えて掲載しています
1. 本日のスケジュール
WS自体は「ある程度人前で話しが出来て、何かやるべき行為があれば誰にでもできます。その上で、その人が持っている雰囲気、また、その時の体調、気持ち、そういったものがWSの内容にも関係してくると思われます」と富永さんはいう。今回はそういった面を観察するために、富永さん自身がWSをするのではなく、過去に富永さんと仕事をしたことがある4人にそれぞれ20分のWSをしてもらう。その後の10分で、参加者はそれぞれのWSについてのよい面、よくない面を記述する。20分の時間の根拠は小学校の授業時間である。小学校では1授業あたり45分である。教室に入って5分で自己紹介して、サブコンテンツとメインコンテンツをそれぞれ20分でやる場合が多い。4人には20分WSをしてもらうということ以外は伝えてはいない。自己紹介、名札作り、遅刻者の対応、そういったことは全て4人の判断に任せられる。4人が終わった後、午後に全員の用紙をもとにディスカッションをする。WSを遂行し、実際に参加者からその場で意見を聞ける場というのはなかなかないであろう。「ファシリテーターの意図を参加者がどういう風に受け取ったのか、また、受け取らなかったのか、もしくは、参加者は何を疑問に思ったか、そういったコミュニケーションが取れる場にしたい」と富永さんはいう。
2. 4人のファシリテーション
名札だけは参加者に作ってもらった後に4人はジャンケンでWSをする順番を決める。
1番手のAさんは名前を紹介してから参加者と円陣を作ってストレッチをはじめた。合間合間に笑いがある。滑らかに次から次とストレッチを進めていく。Aさんはストレッチをしている参加者をよく見ている。ストレッチが終わった後に円陣のまま「いっせーの、ほい」のかけ声で右か左に向くゲーム、その後、隣同士でペアになりジャンケンをするゲームに進む。Aさんはゲームに関係することしかほとんど話さない。自然と参加者同士のボディタッチが生まれている。15分経過したくらいで2人組のジャンケンから3人組のジャンケンに変更する。最初にアイコになったチームが座るゲームでは参加者が熱中している中、Aさんだけは冷静に参加者の状態を見続け、かつ7チームの順位をしっかり記憶している。この時点でだいたい20分が経過する。10分で参加者に感想、コメントを記入してもらう。
・BさんのWS(ダルマさんが転んだ)
2番手のBさんが鬼になって“ダルマさんが転んだ”をする。ふつうの“ダルマさんが転んだ”ではなく、鬼は何も言わずに振り向く。何度か繰り返すうちに段々とルールを変えていく。片足で止まってもらう、他の参加者とくっついて止まってもらう、鬼の言う身体の部位を触って止まってもらう。この時点で10分程経過。会話はあまりおこらない。ルールを変える度に4人のファシリテーターの誰かが質問をして、わかりにくそうなルールは支え合って理解を促す場面もあった。ルールはどんどん複雑化する。「言った数字の数だけ地面に接地して止まる」では、「なんで俺は計算ができないんだ」と呟きながら自己申告でスタートに戻っていく男性がいた。鬼に指摘される前にスタートに戻る自己申告者がこの男性以外にも多かった。終了後に10分間の用紙記入時間がとられる。
・CさんのWS(拍手回し)
3番手のCさんは少し手足をブラブラしたり、ジャンプをするストレッチをした後、“拍手回し”のゲームをする。これは円になって隣の人の目を見て拍手を回していくゲームだ。その拍手回しを早くしていき、今度は口で効果音をつける。Cさんが「すごい」、「いいですね」、「オッケーです」などの言葉をいう。Cさんの相づちがゲームのリズムを作っていく。最終的には「コパカパーナ」という合図が登場する。この合図が出ると参加者は歌い、踊って円を作り直さないといけない。ここまでで身体が温まり、緊張がとけているからか、この「コパカパーナ」が驚く程スムーズに作用していた。参加者全員が多少恥ずかしそうにしながらも踊っている。最後にCさんは「こういうエネルギーをまわしている状況も演劇だと思います」と総括をした。終了後は同じように用紙の記入をした。
・DさんのWS(自己紹介)
4番手のDさんははじめに参加者に椅子を持ってくることを指示した。Dさんは「20分じゃ私、何もできないんですよね」と始めに前置きをする。それは参加者のことをよく知らないからだという。そこで、参加者のことを知りたいので、自分の本名、名札のニックネーム、以前よく呼ばれていた名前、を全員に紹介してもらうことを提案する。Dさん自身もニックネームにまつわるエピソードを披露した。その後、参加者がそれぞれ名前を紹介する。思った以上に突飛な名前、個性的なニックネームが登場した。そして、それにまつわるエピソードもとても味わい深いものばかりだった。Dさんの一人一人に対するコメントとそれぞれのエピソードの楽しさに何人か終わるときには参加者の円は笑いで溢れていた。全員の紹介が終わったときには少し20分を超えていた。
その後、最後の用紙記入をして、お昼休みに入った。
3. ディスカッション
午後は参加者の書いた紙をAさん、Bさん、Cさん、Dさんの順で床一面に広げ、それを参加者は立って見ながら回った。それぞれ見終わったところでディスカッションをするという事を繰り返した。参加者が立っているか、座っているかは自由であり、椅子を出す人もいたり、床に座る人もいたり、非常に自由な雰囲気となった。午前中WSを行った順番でディスカッションが進められた。
・Aさんのディスカッション
Aさんのディスカッションでは「距離感」という言葉が出た。Aさんのファシリテーションには参加者がやらされている感があり、参加者とファシリテーターの距離が遠い部分があった、という意見があった。Aさんの進行はとてもスムーズで滞りがなかった。しかし、スムーズすぎて参加者と距離があったのではないか、という意見も出た。最も印象的だったのは、ある参加者の発言だ。その参加者は、WS冒頭のストレッチで身体が縮んでいる感覚があったが、Aさんが「伸びますねー」と声かけを行ったため、ファシリテーターとの距離を感じたという。その参加者は、固まる人もいる、ということを言ってもらえれば少し違ったかもしれないと意見した。
・Bさんのディスカッション
Bさんは先のAさんのゲームを受けて参加者が身体をもっと動かしたそうだったため、ダルマさんが転んだを選択したという。Bさんの「末っ子キャラ」、つまり、参加者が助けてあげたくなるキャラクターについて議論があった。Bさんのファシリテーションでは、“ダルマさんが転んだ”の複雑なルールが参加者に明確には伝えられていなかったにも関わらず、そのキャラクターが作用して、参加者がルールを察し、主体的にゲームに関わりながら進めることができたとの意見がでた。だが、周りの状況を見て、計算しながら人と関係性を築く趣旨のダルマさんが難しかったという人もいた。そういう人はゲーム中の行為にその感覚が出るので、そこはBさんがもっと拾うべきだったという意見がでた。
・Cさんのディスカッション
CさんはBさんの時点で参加者が頭を使いすぎていることが感じ取られたという。当初はストレッチ、マッサージのかけ合い、もしくは部族の踊りをしようと思っていたが、その場でコンテンツを変更し拍手回しを選んだという。拍手回しの中で踊りを踊る場面があったが、これは大人にとっては大変恥ずかしい行為でもある。それをさせたのはCさんのキャラクターだったという意見があった。始まってすぐにCさんとの距離を感じなくなった、話すときに全身で話していた、などの意見が出た。先のBさんのときのキャラクター議論ではキャラクターは水面下で作用していた感じがあったが、Cさんの場合は全面にでて積極的に作用していたと思われる。ただ、その積極的な雰囲気が苦手だという参加者もいた。
・Dさんのディスカッション
Dさんのセッションでは始め方と内容が中心になった。Dさんは導入部分で「20分では何もできない」と発言したことによって、それを愚痴だと捉えた人とただのつぶやきだと捉える人がいた。仕事としてやるのにその発言はどうだったのか、という意見もあった。Dさんもまったく別のWSを考えていたが変更したという。しかし、内容についてもう少しひねった方がよかった、実名は個人情報の関係上避けた方がよいのではないか、出身の方がいいのではないか、という意見がでた。Dさん自身は実名、今のニックネーム、昔のニックネームの3種類を使うことで参加者の思考に時間軸を作るのが目的だった、という。そうすることによって他人の自己紹介を聞いている間に自分の過去を思い出したりする、という。確かに20人全員がかなり個性的なことを話していた。しかし、4つ目で自己紹介なのかと思った、という意見もあった。
結.よいWSとは
ディスカッションの後、短い休憩を挟んで総括に入った。富永さんは「ファシリテーターがその人に合った進行をしているとき、その進行が正しく作用しているときは参加者のいい面から場がよくなるんだと思いました。よいWSでは参加者のいい面がファシリテートされていくのだと思う」と言って、今回のWSレクチャーは終了となった。