講座の内容記録 2010

劇場運営
『舞台芸術と著作権・契約/実務力がつく4日間 2010』
Vol.4「契約(2):実践編」
 
2010年10月5日(火) 19時〜21時
福井 健策
(弁護士・ニューヨーク州弁護士/日本大学藝術学部客員教授)

《所 感》

ライセンス契約の3ポイント、公演委託契約の3ポイント、国際共同契約の基本的な注意点について充実した内容が述べられた。講師自身は「今回は性格悪いシリーズ」と冒頭で言及していたが、自身の権利・利益を守るためにはいかに対応すればよいかという視点で、具体的な事例を挙げながら話が進められた。自身が権利・利益を与えられる立場であれば、最大限を望み、与える立場であるならば、最小限におさえることを念頭におくのがビジネスの現実だ。曖昧になりそうだと予期される場合には、その点はすべて契約書に明確に記しておくべきである。契約書は100満点のものというものはありえないが、契約書を読み、交渉をすることで、0だったことが20になり、40、50になったりするものである。自身にとって少しでも良い契約を目指すことが大切なのであろう。
記録:有賀沙織(KASSAY有限責任事業組合/東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究室修士課程修了)
1. ライセンス契約の3大ポイント
1-1. ライセンスの対象(Property, Work)など
<ライセンスの対象を定めないために考えられる失敗例>
たとえば、日本の大ヒット漫画をハリウッドで映画化する契約を交わし、実際に映画となったが出来はひどかったとする。その後、別な映画会社から同じ漫画を映画化したいとの依頼を受けても、すでに最初の契約で「それまで発表されていた分、そして今後連載される分についても独占的に映画化する権利」を与えてしまったために、その先のエピソードの映画化すら実現できない。
1-2. 利用の範囲:4つのファクター(期間・地域・方法・独占性)に注意
【期間】有期か永久(Perpetuity)か、自動更新(Automatic Extension)はあるのか?
一般的には、ライセンスを与えられる側(ライセンシー)であれば、長期間であればあるほど望ましく、与える側(ライセンサー)であるならば、短期間であればあるほど望ましい。ライセンスを与えることは上演の権利を与えることであり、義務づけることではないので、長ければ長く上演して貰えるとは限らない。例えば、原作の舞台化を許可した場合、それがヒットした際には、ライセンスを与えられる側から延長の話が持ち上がってくる可能性が大きい。ライセンスを与える側は、その時に延長手続きをすればよい。

自動更新については、更新停止の手続きを怠ると不利益になることがあるので、忘れないよう気にかけておく必要がある。

【地域】国内か国外も含むのか?

【方法】上演・演奏・翻訳・アダプテーション(改変)・アレンジ・放送・有線放送・ネット配信・ビデオグラム(ビデオ・DVDなどの録画)など

【独占性】
 独占ライセンスとは「期間中あなただけが上演可」とすることであり、非独占とは「期間中他でも上演可」とすることである。この差はライセンスを与える側・与えられる側にとって時に決定的な違いをもたらすが、これまで日本では現実的にはこだわってこなかった。
1-3. 対価(Consideration, Compensation)
【無償か、一括(買い取り)か、印税(ロイヤリティ)方式か?】
日本は主にステージ単価(1ステージあたりの金額)で決めている。海外はロイヤリティ(例:入場料収入の10%)による対価も多い。ここで注意しなくてはいけないのは、何に対するパーセンテージなのかを明確にしておくことである。チケット収入に対してなのか、純利益に対してなのか?

【前払金と最低保証金】
現実のロイヤリティの金額に関係なく、最低限支払われる額。基本的に前払金は返金しないものと考えるが、まれに返金を約束する契約書もある。
1-4. その他
【支払方法・報告(Accounting)・監査(Audit)】
<支払方法>
公演の前に支払うのか、後に支払うのかを明確にしておく。支払う側である場合は、公演後の支払い、貰う立場である場合は、公演前の支払いが望ましい。
<報告>
お客さんがどれだけ入り、チケットがどれだけ売れたか報告させる必要がある。報告がされなければ、支払いが適正であったかはわからない。支払いの規定があっても、報告がされなければ、絵に描いた餠である。国際契約では特に重要。

【承認権(Approval)と協議権(Consultation right)】
<承認権>
例えば、原作を舞台化する許可を与えた場合、どのように上演されるかわからない。その際、途中で脚本を見せて欲しいと求めることができ、その脚本に原作者が納得しなければ舞台にかけてはいけないと制限することができるのが承認権である。また、キャストの人選が決まっていない場合に原作を許可するとした場合、キャストや演出家の人選に対しても後で報告することを強制することができる。原作者が承認しなければ、上演は許されない。

【表明と保証(Representation and Warranty)】
「こうなっている」という保証を権利者が請け合う。例えば「この戯曲は他人の権利を侵害していないことを保証します」といった表明をすることがこれにあてはまる。

【国際契約全般に共通するポイント】
<源泉徴収税と租税条約>
とてもややこしい話であるが、交渉した相手との金額に源泉税が含まれているか否かは、契約書にハッキリと記載しておくべきである。国際契約になると、相手が法人でも最高税率は20%であり金額は大きくなるため、トラブルが生じやすい。契約書に源泉税のことは書いておくことが望ましい。
<クレジット(Credit,Billing)>
公演チラシ・ポスターにどのように記すかが大きく変わってくる。どのように自分の名前が出るかでも変わってくる。日本では契約書でこの点について議論することはあまりなく、慣習や力関係で行われていることが多い。国際契約の場合は書いていないことは、やってもらえないと思った方がほぼ間違いない。
<完全合意(Entire Agreemeent)>
書いていないことは基本的に合意していないということを示している。口頭の合意はされていないとみなされる。契約書にありえない条件を見つけた場合は、相手の口頭の説明など受けるより、文章の変更を交渉する。
<準拠法と裁判管轄(Governing Law and Jurisdiction)・仲裁規定(Arbitration)>
国際契約の場合、このいずれも相手国となっていた場合は到底勧められない。アメリカで裁判を行うとすると相当の金額とエネルギーを要するため、日本側はだいたいの場合、裁判をやらないという選択肢を取る。だからその分、契約書ではアメリカでの裁判を認めないよう尽力するべきである。
2. 公演委託契約の3大ポイント
2-1. 委託業務の内容(何を委託されたのか)
*企画・制作、舞台運営、契約・権利処理、票券、広報宣伝、営業、受付、案内、警備、プログラム、物販……など、何を委託するのか、何を委託されたのかを明確にしておくべきである。
*公演内容の変更・中止
*主催者側の責任(会場、機材、移動、宿泊、現地クルー、音楽著作権処理……)
音楽著作権処理については、主催者としてはグランドライツ(ミュージカルナンバーなどの権利処理)は除いた方が無難である。
2-2. 報酬で「どこまでの経費」がカバーされているのか?
【報酬】
委託業務の場合、経費が生じるのが特徴。報酬でどこまでの経費がカバーされるのかを明確にしておく必要がある。

【実費の負担・予測外の追加費用の扱い】

【支払いスケジュール】
国際契約においては、基本的に来日前には全額を支払うのは賢明ではない。支払いは来日後にしておけば、費用の面でも相手に来日させる動機づけにもなる。

【助成金・協賛金の扱い】
2-3. 公演の二次利用はどこまで許され、その処理はどちらの責任か?
例えば、舞台がTV 放送されるとなった場合は、誰が権利処理をすべきかを明記すべきである。
2-4. その他
【独占性】
例えばある公演を日本に招聘してちょっとしたブームになり、再来日をするとなった場合、初来日と同じところが主催に入るという契約をしておくようなこと。

【公演の安全管理と事故の対処】

【保険の加入】
国際契約の場合、およそ日本にはないような保険の加入を求められることがあるが、簡単に署名すると後で危険。

【不可抗力】
「不可抗力がある場合はお互いにそれ以上の義務は負わなくてよい」とすることがあるが、何が不可抗力かの判断はしばしば困難。
3. 国際共同契約の基本的な注意点
3-1. 英文文書のタイプ
○ディール・メモ(Deal Memo):通常は、短い覚書を指す
○レター・アグリーメント(Letter Agreement):手紙形式で実際の条件が記してある
○ロング・フォーム・コントラクト(Long Form Contract):長い契約書
*弁護士に相談する場合は、必ずディール・メモの段階で行うべきである。基本的に、ディール・メモでのんだ条件は覆すことができないと考えてよい。ディール・メモは「仮の契約」ではなく、立派な正式契約と捉える。
3-2. 公演委託(Engagement,Entrustment)と共同製作・共催(Co-Production)の違い
【公演委託】
来日してもらい、公演をやってもらう。

【共同製作・共催】
お互いにお金を出し合い、仕事を分担し、ともに公演を創っていく。
しかし共同製作とあっても、事実上は公演委託となっているケースもある。国際共同製作だとイメージがよいのと、助成金の取得が可能になるためか。
3-3.「出資・負担比率」方式か?「 費目・着任配分」方式か?
3-4. その他
【公演委託】
来日してもらい、公演をやってもらう。

【日当】

【宣伝素材と利用の範囲】

【成果物の知的財産権は共有か、将来の再演、二次利用の権利は?】

【ビザ(在留資格認定証、労働許可)、通関(Custom Clearance)とカルネ(Carnet)等】