講座の内容記録 2010

劇場運営
『舞台芸術と著作権・契約/実務力がつく4日間 2010』
Vol.1「著作権(1):基礎編」
 
2010年9月14日(火) 19時〜21時
福井 健策
(弁護士・ニューヨーク州弁護士/日本大学藝術学部客員教授)

《所 感》

本講座は合計5回に渡って開催される連続講座のうちの第1回目である。著作権の法律上の概念と具体的な事例についての話がなされ、実務に携わっている人にとって必要な情報が的確に盛り込まれた、初心者にもわかりやすい講座となっている。

この講座では穴埋め形式の資料が配布され、その空白を埋めながら受講することができるため、聞きなれない人にとって覚えづらい法律用語も習得しやすかったように思う。また講座の最後には法律用語の確認テストを行うなど、時間のない実務者にとって助けになる構成となっていた。

とりあげる訴訟内容も現代美術や舞台芸術、ウェブサイト上の作品など多岐にわたっており、文化・芸能に携わる人間にとってわかりやすく、かつ著作権をより身近に感じることができる内容の講座となった。
記録:横田宇雄(学習院大学大学院人文科学研究科身体表象文化学専攻博士前期課程在籍)
1. 著作権とはどういう制度か
著作権とは創造の果実としての一定の情報(=著作物)について、それを創作した人に一定期間与えられる独占的権利であると言える。

(例)
・本そのもの……所有権が及ぶ。所有者が持つ権利である。
・本に書かれた情報……著作権が及ぶ。著作者が持つ権利である。
→所有物はものそれ自体の保有を争うので競合性がある。一方で、情報はコピー・配布をすることができるので競合性がない(非競合性)。

物それ自体の所有権は所有者にあるが、その情報の著作権は著作者に与えられる。しかし、著作者が冊子に書かれた情報を独占することは難しく、いつどこで情報がコピーされるかわからない(これを非排他性、非排除性と言う)。そこであえて、情報を独占管理するための法律を作ったのが、著作権である。

つまり、著作権は物それ自体ではなく、情報に対して及ぶ独占権であると言える。
2. 著作権の及ぶ範囲
著作権はどのようなものに及ぶのか。定義は以下である。

著作権の定義:感想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条第1項)

その具体的な内容は以下である。
  1. 小説・脚本・講演など(詩や短歌も含む)
    →言葉に関するもの
  2. 音楽
    →音楽CDについては注意が必要である。作詞・作曲、実演、マスター作成の3つの段階のうち「作詞・作曲」に対して著作権が及ぶ。
  3. 舞踊、無言劇
    →舞踊や無言劇の場合は振付家に対して著作権が発生する。踊り手には生まれない。
  4. 美術(イラスト、グラフィックを含む)
  5. 建築(創作性のある建築に対して)
  6. 図形(設計図面、地図)
    →地図には創作性が認められる(交通標識を強調する、地形をデフォルメするなど)限り、著作権が及ぶ。
  7. 映画(ブラウン管に映すもの、アニメやショートフィルム、コマーシャルなども含む)
  8. 写真(創作性の認められる写真に限る)
  9. プログラム(コンピュータプログラム、ゲームなど)
また、これらの定義に当てはまらないとしても創作的な表現は全て著作物である。
3. 著作権の及ばない範囲
実務上で問題が起きるのは上記の例だけでは判断できない場合である。著作物に当てはまらないような情報は以下である。

◎ありふれた表現
→小説やエッセイなど、細分化した部分の抜粋に創作性が認められない場合、著作権は及ばない。例えば「少年は背筋に冷たいものが走るのを覚えた」など、成句となっているものは、特定の文学作品から引用しても著作権は及ばない。
しかし、どこからが創作性を認められ、どこからが定石的な表現なのかは曖昧である。創作性の優劣は問われない。

[事例]
『東京アウトサイダーズ』事件。『東京アウトサイダーズ』の著者(ロバート・ホワイティング)が使用した写真に対して、写真撮影者が著作権侵害を主張した事件である。スナップ風の写真であるにも関わらず、裁判所は創作性があると判断した。

◎事実
→史実や事実を発見したからといって、その情報に対して著作権は及ばない。

[事例]
『弁護士のくず』事件。原告側は漫画『弁護士のくず』が小説『乗っ取り弁護士』の盗用であると主張したが、被告側は同じ実際の事件を取り扱っただけで表現は似ていないと反論する。裁判所は著作権侵害には当たらないと判断した。

◎アイディア
→アイディアやルール、作風の模倣(パスティーシュ)に対して著作権は及ばない。従って、夏目漱石『我輩は猫である』の「ネコが一人称で語る」という設定などは著作権の及ぶ範囲ではない。アイディアは共有財産であり、著作権によって文化が窒息することを防ぐという社会合理的な見地からの判断である。

また、以下に挙げる2種類のものは、通常は著作物にあたらない。

◎題号・名称

◎実用品のデザイン
4. どんな利用に対して著作権は及ぶのか
著作権とは、著作者が著作物の利用に対して制限を加えることができる権利である。
  • 複製権……印刷、コピー、録音、録画、写真撮影などを禁止することができる。
  • 上演権、演奏権……不特定多数の人間が鑑賞する演奏を禁止することができる。
  • 上映権……同上。これはスクリーンだけでなくブラウン管での上映も含む。
  • 公衆送信権……これは放送だけでなくインターネットにアップロードすることなども含まれる。
  • 譲渡権……映画以外の著作物を譲渡・貸与することを禁止することができる。
  • 貸与権……映画以外の著作物の複製を貸与する権利を禁止することができる。
  • 翻訳権、翻案権等……翻訳は著作物を外国語へ翻訳することである。翻案とは原作と似た作品を作ることである。
  • 二次的著作物の利用権……二次的著作物(漫画のTVドラマ化など)に対しては原作者も上記の各権利を持つ。……など
現在は二次的著作物だけではなく漫画→アニメ→TVドラマなど、いわば多次的に著作物が多く生み出されている状況と言える。ひとつの作品に対して原作者が何人もいる状態が生まれている。
5. 著作権と著作権者
著作者には、著作権を取得するための手続きは必要ない。著作権表示(©マーク)などは牽制のために用いていることが多い。また、著作権表示に誤った記載がされていたとしても、それだけで著作者が変わるようなことはない。

著作者と著作権者(著作権を所有する人)は異なる場合がある。著作者は著作権を譲渡することができる。著作権を譲渡された人物は著作物に対する著作権者になる。理論上、口頭や暗黙の了解で譲渡可能であるが、実証することは難しい。そこで著作権を委譲された場合には紙に残すなど記録を取っておくことが必要である。

著作権表示は厳密には著作者ではなく著作権者の名前を表示する。
6. 著作者人格権
著作権を譲渡しても著作者にはいくつかの権利が認められている。
  • 公表権……著作者はどのような形で著作物を公表するかを決める権利を持つ。
  • 氏名表示権……著作物を公表する時に、どういう形で著作者名を表示するかを決定できる権利である。氏名を表示しないことも選択できる。
  • 同一性保持権……自分の著作物を意思に反して改変されない権利である。
7. 模倣とオリジナルの境界
著作権の侵害を訴えられた場合、「見たこと・聞いたことがない」もしくは「似ていない」ことを立証できれば勝訴することができる。前者は偶然の一致に対しては著作権が適用されないからである。

[事例]
「スイカ写真」事件。模倣とオリジナルの境界は曖昧で、訴訟毎に異なる。
参考:福井健策「著作権とは何か」「著作権の世紀」(集英社新書)