舞台芸術と著作権・契約/実務力がつく5日間 2009
2009年10月29日(木) 19時〜21時
福井 健策
(弁護士/日本大学藝術学部 客員教授)
《所 感》
本レクチャーでは、法律を実際に適用するさいにどうしても曖昧な部分が出てきてしまうことを理解した上で、万が一に備えた対策を考えなくてはならないのだということを学んだ。少なくとも創作側が無自覚に著作権侵害を行って莫大な損害賠償が発生しないように、制作担当者は気を配らなくてはならないと感じた。同時に、自由な創作活動を制限しないような環境づくりや、周囲との調整が必要なのだとも思った。また文化や芸術は時代の流れと共に変化していくものであり、自分なりの基準を持つことが大切なのだということを感じた。そしてそれに伴い、著作権も時代によって範囲や解釈が変わっていく為、決めつけずに幅広い解釈が必要であるということを認識した。作品創造は、素晴らしい作品ができて観客が感動して終わるのではないということを肝に銘じて、制作者ができるだけ権利問題を企画段階から創作後に至るまで気を使う必要があるということを強く感じた。
記録:鶴野喬子(世田谷パブリックシアター研修生)
(以下、一部の抜粋)
■「著作権(2):実践編」10月29日(木)19時〜21時
著作権に関しての第2回目のレクチャー。
まずは保護期間と国際著作権について。保護期間の原則として保護期間を過ぎると著作権が切れ自由に使えるようになる。原則として著作者の生前及び死亡の翌年の1月1日から50年間著作権は続き12月31日の大みそかと共に終わる。他の知的財産権に比べると突出して長い。匿名・ペンネーム・団体名義の場合は公表の翌年から50年である。
映画については公表の翌年から70年となっている。(2004年より保護期間が50年から延長されたことにより53年問題が起こった。『ローマの休日』『シェーン』などが対象になり著作権は切れたとの判決が出た。)また戦前・戦中の連合国の作品には「戦時加算」による延長がある。著作権法の基準に最大10年5ケ月がプラスとなる。戦中の作品なら、その作品が生まれてから終戦までの期間(1952年サンフランシスコ条約まで)が加算される。
著作隣接権については実演、レコードの発行、放送、有線放送の翌年から50年である。著作者人格権・実演家人格権は死後も利益保護し、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順で行使できる。
世界中のほとんどの国は国際条約に従い互いの国の作品を自国の法律に従って守る(ベルヌ条約)。著作権は大筋には世界共通である。
次に実践としてキャスト・スタッフそれぞれの権利について。
実演芸術を構成している中でまず戯曲、台本は著作物にあたる。劇作家、脚本家がこれにあたる。座付作家が劇団を離れる時に著作権についてもめることがある。劇団側は戯曲を共同著作と主張することがあるが、共同著作を基礎づけるものはただ一つ、創作的な表現である。これを提供していない者は共同著作者にはならず、アイデア、データを提供しても共同著作にはならないのである。
振付も著作物であり、装置・衣裳デザインと照明プランも、十分な創作性のあるものについては著作権が発生する。またデザインの著作権と装置・衣裳の所有権については区別して考える必要がある。
音楽(作詞・作曲)も著作物である。CD演奏も演奏の内に入る為にイベントでの客入れ・BGMにも注意をする必要がある。舞台上での音楽の使用許可はほぼJASRACの管理の下にあるが、例外としてミュージカル・オペラ・バレエなど演劇的な外国曲の音楽作品を上演利用する時など、別途に管理されていることがある。このことをグランドライツなどと言う。
演技・ダンス・歌唱・指揮・演奏は実演となり著作隣接権にあたる。著作隣接権の内の実演家の権利には、「私に無断で私の演技や演奏を収録利用しないでください」という録音・録画権(コピー含む)、放送・有線放送権、送信可能権(ネット配信)がある。ただ「私の演技を真似しないでください」という「翻案権」はない。
最後に演出・制作の権利についてであるが、演出(家)は実演(家)に分類されているが、制作(者)にはおそらく法的な権利はない。ただ権利を獲得する手段はあり、それは契約である。