『エレファント・バニッシュ』初日観劇レポート Vol.1

 現代人、あるいは現代社会の内包するひずみを強く感じさせる舞台でした。同じ役を入れ替わりながら演じる役者達は誰もが同じ不安をもっていることを暗示しているような印象を与えます。さらには日本の作家である村上のこの奇妙な不安のようなものを表現しきったということは、日本だけでなく他の国の人もこの不安を共有するものだということをサイモン・マクバーニーは証明することに成功したのだと感じました。
 (T.Oさん、23歳)

 映像や役者さんたちの肉体表現は、物理的な縮尺・距離感・方向性を狂わせ、内外の区別を見失わせ、否が応にも自己の中心を感じずにはいられなくなった。村上春樹の作品を、大胆に破壊し、大胆に解釈し、そこに作り上げられた世界が「現在の東京」なのか、はたまた何か別のものなのか、それは分からなかったが、「現実(と認識している)世界の危うさ」のようなものを「現実に」体験することができ、非常に興奮することができた。
 (H.Iさん、32歳)

 人や物の動きによってゆらゆらと揺れる映像、遠いのか近いのか距離感が判らない音、バレエの様に優雅でもあり、何か象の足枷がつけられていて思うように動けない様にも見える、重力を感じさせない人々の動き、客席も含めて会場全体の空間が水の中に呑込まれていて、水中で起っている日常を見ているような、不思議な感覚だった。
 「これは夢?それとも現実?」と疑問を持ち、必死に確かめようともがいている夢の中の自分、その様子を見ている眠っている自分、過去何度か経験した事がある、そんな夢をふと想い出した。
 個人的にアロマテラピーにはまっているので、今日の舞台を香りに例えると、透明感のある「スイートマジョラム」と、スパイシーでクールな「ジュニパーベリー」をブレンドした感じ。都会時間という激流に押し流されながされるちっぽけな存在でも、何かを掴んで水面で呼吸しようとしている様で、とても素晴らしい舞台でした。
 (K.Aさん、41歳)

 演劇は自由なんだ、舞台の上ではどんな可能性もあるんだということを改めて実感させられた。
 (M,Sさん、33歳)

 終始観ているこちらが現実と、そこに潜む非日常的な意識や非現実性との間で浮遊しているような感覚を味あわせてくれる演出にただただ溜息が出るばかり。
 (H,Kさん、23歳)

 初めから圧倒された。
 まるでトリックのように、予想外の展開で、この劇は幕を開けた。
 どこまでも透明で、
 どこまでも不透明なトリック。
 (M,Sさん、23歳)

 ダイナミックなスピード感、緊張感あふれる音楽と映像ともあいまって、想像力を掻き立てられました。映像がふんだんに使われていながら、必要以上のこと語らない。小道具の使い方など、まさに「そうきたかぁっ」の連続でした。迫力ある演技と繊細な舞台空間の融合あるいは競合ってホント面白い。後ろの席の人は「台詞がかっこよかったよね。」と言っておりました。・・・台詞?しまった、観ることに集中しすぎてしまいました。最低2回は観たい作品です。
 (M.Sさん、21歳)

 象が消滅する以上の衝撃を感じた。演技と映像と音響が錯綜する『エレファント・バニッシュ』。読みなれたはずである村上春樹の作品が、ここまでも激しくぼくの胸を揺さぶったのだ。村上作品を映像では絶対に表現できないものだと確信しているぼくにとって、『エレファント・バニッシュ』の舞台は新鮮かつ驚愕で、そしてあまりにもリアルな演出表現は、今でも目を瞑るだけで再現可能である。
 (H,Yさん、21歳)

 つまりはこの舞台、様々な仕掛けがありとあらゆる方法で組み込まれているにも関わらず、それら全てが役者と一体となって、さも自然に客をトランス状態へ導くのだ。サイモン氏の頭の中を覗いてみたいと誰もが思うだろう。
 (N.Iさん、20歳)

 この舞台を観る前、村上ワールドがもつ独特な空気感を3次元の舞台にのせることなど出来るのだろうかと疑問をもっていた。しかし、この『エレファント・バニッシュ』はそんな予想をいとも簡単に裏切ってくれる作品に仕上がっていた。・・・劇場を出ると、自己の内面との対峙しはじめている自分がいることに気がついた。どうやらマクバーニーマジックにかかってしまったらしい。
 (M.Kさん、37歳)

 これは多くのシアターゴアーズに体験してほしい、いや体験しなくては損な舞台だ。
 (Y.Nさん、41歳)

 始まりと終わり。原因と結果。自分では、どうにもならないことに振り回される日常。大都会だからこそ成り立つ普遍の物語。やはり自分に照らし合わせて考えさせられた。
 (Y.Nさん、35歳)

 ワイヤーで吊られた人物が、舞台上を自在に動き回る。登場人物の心の中の分身が空中から見下ろすことにより、自己を客観的に語っているのが感じられる。また三面鏡を覗きこんだ時に見える何人もの自分のように、距離を置いて立つ同じ人物を演じる俳優たち。過去から今までの時間の経過を一目で見ているような不思議な気分を味わった。
 (S.Iさん、38歳)

 現在の日本で、これだけ隙の無い「美」を見せてくれる演出家は多分、一人もいないだろう。改めて、世界の芸術の広さを見せつけられた気がした。
  (R.Aさん、21歳)

 俳優は舞台の奥行きを生かして前後に動いていたかと思えば、次の瞬間には宙吊りになって、舞台に対して垂直になったまま演技を続けていく。この舞台上での正しい地平はどこにあるのだろうかという不思議な感覚に襲われました。・・・隙なく統一されているかのように見える都市や世界がはらむ危うさを丁寧にすくい上げた秀作だと思います。
 (M.Yさん、26歳)

 原作の世界はパーフェクトに表現されていたように思います。なぜ去年はそう感じなかったんだろう。初演から再演でこんなに感じ方が違うこともあるんですね。
 (S.Mさん、41歳)

 普段は心のどこかに眠っている、言葉にし難い違和感や不安を呼び起こされて、目が覚めた後も繰り返し思い出して考えずにはいられない、そんな夢を見たような感覚。面白かったノ!
 (H.Sさん、28歳)

 一つの空間が多元的になるのは能狂言の手法に似ている。不眠の主人公が本を貪り読む内に、身体がスクリーンとなり彼女に文字・言葉が流れ込み、やがて舞台の四方八方にも流出するのが印象的なシーン。終演後の今も私の中に脈々と言葉が流れ込んでいる。
 (M.Sさん、33歳)
 

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