公演情報 2022.03.08

『MANSAI ◉ 解体新書 その参拾弐 完 「檄」~初心不可忘~』公演レポート

 

 世田谷パブリックシアターの芸術監督を長きにわたって務めた野村萬斎が、3月末日で退任する。それに伴い、2002年の就任時に立ち上げたトーク&パフォーマンス企画もついにファイナルを迎え、2月24日に『MANSAI◉解体新書 その参拾弐 完 「檄」~初心不可忘~』が開催された。記念すべきこの公演のスペシャルレポートをお届けする。

 

 現代芸術の世界を構成するさまざまな分野、要素をパーツに分け、それぞれの成り立ちと根拠をあらためて問い直す同シリーズは、ホスト役の野村萬斎とゲストである各分野のアーティストたちが互いの表現方法を持ち寄り、その形態の違いを確認する一方、共通する必要不可欠なもの=「表現の本質」を探る人気企画。今回はゲストなし、萬斎が一人で、20年間にわたる芸術監督の仕事を振り返った。

 

 第一部の冒頭で萬斎は、タイトルに冠された「初心不可忘(しょしんわするべからず)」について説明。芸道の到達点を「花」にたとえるなら、初心とは「種」であり、水のこと、土のこと、空気のことに気を配り、美しい花を咲かせるために配慮と熟慮を忘れてはならない――「どうあるべきか」を考え続けることが、最も美しい花を咲かせることにつながる本質であると解説した。そして「解体新書」の中で多彩なゲストと一緒に「いま」について語り合ったことが、劇場でいくつも咲かせてきた「花」に結びついたと語った。

 劇場空間に特設能舞台を設置し、狂言の多角的な魅力を提示してきた「狂言劇場」。古典芸能とシェイクスピア、現代劇との融合を図った『まちがいの狂言』、『国盗人』、『マクベス』……トークでは数々の舞台の思い出も飛び出し、観客もここで観てきた名作に思いをはせたことだろう。ローカリズムとグローバリズム、伝統と現代。時にユーモアを交えながら清々しい表情で喋る様子には、革新的な試みを考察し世界的にもその存在感を示してきた劇場の芸術監督として、多角的に役割を見つめ、可能性を拡張し、信念を曲げずに体現してきた自負もにじんだ。

 とある人から「私は(世田谷パブリックシアターのある)世田谷区の住民であることに誇りを感じる」と声をかけられたことが、「芸術監督としてこの上ない喜びとなった」という。狂言で最初に発する台詞「この辺りのものでござる」を引用しつつ、「世田谷でも、海外でも、この台詞は変わらない。どこにもいそうな人間の代表であり、みなさんの代弁者であるということ。この共通理解から始まる精神は、狂言がいつの時代のどこに暮らす人にも通じる、普遍的なものを表現してきたことを示す」と語る言葉からは、公共劇場や芸術の役割についてたゆまず考えてきたことが伝わってきた。

 

 

 第二部は、萬斎の言葉を借りれば「感謝の気持ち、贈りもの」。2011年に『狂言劇場 その七』で初演し、世田谷パブリックシアター開場20周年公演などでも上演されるなど、各所で好評を博している『MANSAI ボレロ』のスペシャルバージョンを、豪華特別編成のMANSAI BAND(音楽監修・尺八:藤原道山、尺八:田嶋謙一、竽・笙:豊剛秋、大篳篥・琵琶:山田文彦、和太鼓:辻祐、パーカッション:神田佳子)とともに披露した。ラヴェルの傑作舞踊音楽《ボレロ》と、『三番叟』を軸とする狂言の技法が溶け合う独舞の終わり、中央に設えられたまっすぐなスロープを一挙に駆け上がり、舞台奥に飛び去るラストは、あたかも鳳凰が飛翔するが如く。お別れの挨拶のようでもあり、新たな旅立ちにも見えた鮮やかな幕切れに、いつまでも拍手が鳴り止まなかった。

 

 

 

文/川添史子  撮影/森日出夫

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