公演情報 2017.08.10

チック通信vol.4【原作者が作品に込めた想い―翻訳・演出 小山ゆうなが紐解く―】

 

舞台『チック』の原作となる児童小説「Tschick」。早世したドイツの作家ヴォルフガング・ヘルンドルフが脳腫瘍を宣告された直後に書いた作品だと言うことは、本作の重要なキーとなっています。

ヘルンドルフは1965年ハンブルク出身で、イラストレーターとしても名を馳せています。彼は病名を知らされ、長くは生きられないことを悟った後に、もともと短編として書いていた作品を長編の児童小説へと発展させました。こうして2010年に発表された本作「Tschick」は、ドイツ国内で1年以上にわたりベストセラーを記録、世界26ヶ国で翻訳され、2013年にも日本で出版(邦題「14歳、ぼくらの疾走:マイクとチック」小峰書店)、200万部を超える売り上げを記録しています。ドイツ児童文学賞、クレメンス・ブレンターノ賞、ハンス・ファラダ賞も受賞しました。ちなみに彼は、闘病しながら執筆活動を続けていましたが2013年に48歳の若さで自ら命を絶ちました。

死を意識したヘルンドルフが、14歳の少年2人の冒険ストーリーを通して伝えたいこととは何だったのか、そしてドイツ国内のみならず国境を越えてたくさんの人の心に響いている理由を『チック』の翻訳・演出の小山ゆうなさんはこのように語っています。

 

「14歳という良い事も悪い事もビビットに感じられ、様々な事が凝縮される時期の少年達を通して、社会の一般常識やルールがいかに、その枠から外れてしまった者にとって残酷か、本当に大切な事を見失わせる可能性を秘めているかを描いた事が多くの人の心をとらえ、国をこえ、時代をこえ、本だけで26カ国語に訳され、演劇もドイツではやられていない公共劇場は無い程の広がりを見せている。―中略―チックは、ロシアからの移民だ。とはいえチックはその事を悲観する事なく、ただ生まれつきそうだった現実として受け入れている。しかし彼に与えられた環境が彼を孤立させている事は間違いなく、ドイツには多くのこのような厳しい環境に身を置く移民がいる。―中略―

本作品にはこのようなドイツの重い歴史を背景としたエピソードもあるが、重い歴史が中心的テーマにはならず、あくまで当たり前の事として存在し、きっと誰もが共感出来るエピソードを積み重ね、その中で人々が生きている姿を描き、その事が他にありそうでないこの作品の魅力となり、様々な賞を受賞し高い評価を受ける作品とさせている。―中略―

複雑に絡み合い、真実や大切な事を見失いそうになる現代社会で、どう生きるのか、死を意識したヘルンドルフが、正に疾走する少年達に重ねて、生きる事について全エネルギーを注いで紡ぎだした美しい言葉一つ一つにヒントが見いだされ、日本のお客様の心をとらえるものとなる事を祈っている。」

 

原作は児童文学ですが、決して子どもだけに向けられた作品ではありません。ドイツでは舞台版も大ヒットし、14歳の役をあえて大人の俳優が演じることで、幅広い年齢の観客から大きな共感を呼びました。ドイツの歴史や移民問題を背景に置き国を越えて共感されているストーリーを、ドイツ出身の小山ゆうなさんによる翻訳・演出を通して、柄本時生さん、篠山輝信さんをはじめとした“大人”のキャストが描く日本初演の『チック』。どうぞご期待ください。

 

4 yunakoyama7438<翻訳・演出:小山ゆうな>

ドイツ ハンブルグで生まれ、幼少期をドイツで過ごす。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業。劇団NLT演出部を経てフリーに。アーティストユニット「雷ストレンジャーズ」を主宰する。最近の演出作にシュニッツラー『緑のオウム亭—1幕のグロテスク劇—』(17年)、イプセン『フォルケフィエンデ 人民の敵』(15年初演、「テアトロ」渡辺保氏の“今月のベストスリー”に選ばれ、16年『国際演劇祭—イプセンの現在』に招聘され再演)、ラティガン『ブラウニングバージョン』(14年)、劇団銅鑼公演・別役実『はるなつあきふゆ』(15年)などがある。作品上演の度に評価を高める、いま最も注目すべき若手演出家の一人。

 

 

 

 

「チック」の公演情報はこちらから
https://setagaya-pt.jp/performances/201708tschick.html