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2004/5−2005/3のシーズンにむけて
――この辺りの者でござる――

野村萬斎

 私の就任一年目の仕事となった昨シーズンのプログラムに関しましては、皆様から様々なご支援をいただき、まことにありがとうございました。おかげを持ちまして、すべての事業は滞りなく終了し、いよいよこの五月から二年目のシーズンの開幕となります。
 そのスタートにあたり、就任時に掲げた「この辺りの者でござる」という言葉を、あらためてこの劇場での私の基本的姿勢を示すキーワードとして挙げさせていただきます。
 ご存知の通り、「この辺りの者でござる」というセリフは、狂言の登場人物の多くが最初に名乗るものですが、これは古典特有の発想にもとづく重要な言葉であると私は捉えています。すなわち、これから始まる舞台が、その日来ていただいたお客様と同じ目線でつくられていること、また、狂言がいつの時代のどこに暮らす人にも通ずる、普遍的なものを表現してきたことを意味する言葉であると私は考えているからです。
 古典に埋め込まれている、このような「地域性、同時代性、普遍性」を重視した活動を、この現代舞台芸術のための劇場である世田谷パブリックシアターで行うことが、私の芸術監督としての使命であり、その姿勢を変えることなく、今年はさらに目標の実現にむけて積極的に活動に取り組んでいく所存です。

 さて、昨年度は上記のキーワードを元に、次の四つの活動の柱を立て事業を展開してまいりましたが、今年も同様のプログラムの流れを設定し、実行していこうと考えています。

1.レパートリーの創造

 広範な観客の芸術享受の期待と欲求へ応えられる、内外の古典や現代戯曲をもとにした優れた劇作品を創作し、それを中長期にわたり繰り返し上演可能な世田谷パブリックシアターのレパートリーへ、ひいては日本演劇の共有財産へと育て上げていきます。
 昨シーズンは〈レパートリーの創造〉を目指した演目として、『ハムレット』―ジョナサン・ケント演出、野村萬斎主演、『エレファント・バニッシュ』―サイモン・マクバーニー演出、現代能楽集『AOI/KOMACHI』―川村毅作・演出を制作し上演しましたが、本年はまず書き下ろしの新作として、現代能楽集『求塚』を鐘下辰男の作、演出にて上演します。
 また既存の戯曲に新演出をほどこすものとして、永井愛の二作品『時の物置』『見よ、飛行機の高く飛べるを』をそれぞれ江守徹、アントワーヌ・コーベの演出にて上演します。
 新しい翻訳による海外古典の上演作として、昨年の『ハムレット』に続き、シェイクスピアの『リア王の悲劇』を佐藤信の演出、近藤弘幸の翻訳で上演します。
 そして日本演劇の不朽のレパートリーとして位置づけられる木下順二作、観世榮夫演出の『子午線の祀り』の再演を、1999年の新国立劇場での上演以来、五年ぶりに再び私の主演にて行います。
 昨年の作品の内、日英両国で上演した『エレファント・バニッシュ』は非常に好評をおさめ、本年6月に再演の運びとなりました。

2.海外への舞台芸術の発信と共同制作

 海外の劇場やフェスティバルと提携して、世田谷パブリックシアターのレパートリーを積極的に世界へ発信していきます。
 また、アジアや欧米のアーティストと共同して、世界に通じる新しいスタイルを持った舞台芸術作品を共同で創造し発信していきます。
 このことで世田谷パブリックシアターを、日本における国際的な舞台制作のための拠点として環境整備していきます。
昨シーズンの海外発信としては、『ハムレット』と『エレファント・バニッシュ』の二作品が、日本での上演後にロンドンで上演されましたが、今年は六、七月に日本で再演される『エレファント・バニッシュ』が、その後、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ロサンジェルスに四ヶ月にわたる長期のワールドツアーに出発します。
 また、海外のアーティストとの共同制作では、「アジア現代演劇コラボレーション」を来年3月に上演します。
 さらに今年から、フランスで活動する振付家ジョセフ・ナジとの共同制作の準備をすすめ、来シーズンには日本人のパフォーマーによる舞踊作品をアヴィニョン・フェスティバルに出品する予定です。

3.地域に向けた教育普及活動

 専門的な上演活動とリンクしたワークショップ、ドラマリーディング、レクチャーなどの教育普及活動を充実させ、地域を中心とした観客の育成を図っていきます。
 また、すでに昨年から始めた、地域の小中学校に出かけてワークショップなどを行う「アウトリーチ活動」をさらに積極的に展開して、地域の青少年が舞台芸術を体験し、情操を高めるための機会を拡充していきます。
 この二つの活動により、舞台芸術が生み出す豊かな価値を地域に還元することを目指していきます。
 具体的には、世田谷区立の小学校六年生の全員が万作の会による「狂言パフォーマンス+ワークショップ」を鑑賞と体験をする『古典芸能鑑賞教室』、イギリスのロイヤル・ナショナル・シアターのエデュケーション部の協力により、昨年に制作したワークショップ体験型公演『うっかり、ちょっと、きのこ島』の区内小中学校の体育館への巡回公演など、体験型の演劇、ダンスの様々なプログラムを用意し、学校のニーズに応じて提供していきます。

4.地方の公共劇場との連携

  地方公共劇場と連携して、世田谷パブリックシアターの上演作品を日本国内にむけて発信していきます。
 また、地方の公共劇場が制作した劇作品も受け入れ、公共劇場の間の制作的な連携機能を強化していきます。
 それらの作業の積み重ねにより、日本の舞台芸術の中心である東京において、公共劇場間の共同制作や連携を支える拠点としての役割を果たしいきます。
 今シーズンは、『時の物置』『見よ、飛行機の高く飛べるを』の二作品と、『子午線の祀り』が日本各地の公共劇場にて旅公演を行います。
 また、当劇場への受け入れ作品としては、今年オープンする松本市民芸術館(芸術監督串田和美)制作の『コーカサスの白墨の輪』を来年1月に予定しています。
 

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