20周年を迎えて

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芸術監督・野村萬斎  撮影:江森康之

今年でオープニングから20周年……そう思うと感無量です。1997年の開場式典で、私は三番叟を踏ませていただきました。劇場のオープニングで三番叟を初めて踏んだ日は、私の31歳の誕生日でもありました。

その5年後に初代劇場監督の佐藤信さんとスタッフが育んだ世田谷パブリックシアターの芸術監督に私が就任することになり、特別な縁を感じています。以来15年にわたって多くのかたとともに歩んできました。観客の方々と活動に関わってくださる皆さんに、感謝しています。

上演リストやポスターを眺めてこの劇場の歴史を振り返れば、私の掲げる3つの方針が次第に浸透している、と実感できます。「地域性、同時代性、普遍性」「伝統演劇と現代演劇の融合」、「レパートリーの創造」。この3つが連動して、近頃は新しい劇場文化が開花する時期にさしかかってきたようです。

2020年の東京オリンピック開催も視界に入れ、諸外国との文化交流も一層盛んにしたいですね。バブル景気に沸いた80年代は企業の協賛や助成金も得やすく、来日公演が増えました。が、90年代に経済が低成長期に向かうと、招聘は減りました。

けれども、バブル崩壊後に建った世田谷パブリックシアターでは、海外の優れた作品を紹介し続けています。ロベール・ルパージュ、サイモン・マクバーニーなど世界屈指のアーティストと協力して創造を続け、招聘の基盤を築きながら、身体表現に優れたフィジカル系、ハイテクノロジーを駆使した先端系など、観客の知見を広げる舞台を招くことができました。その結果、今までにないものに出合う場所、以前はなかった発想ができるようになる空間、そんなイメージが定着したのです。

人々の対話と相互理解を促す、作品を創る

2017年度の開場20周年記念プログラムにも、質の高い作品が並びます。新年度の始まる4月には、20周年記念公演『MANSAIボレロ』『唐人相撲』という祝祭的な演目で、皆さんと喜びを分かち合いたいですね。『MANSAIボレロ』は1928年にフランスでラヴェルが作曲したバレエ音楽「ボレロ」を、三番叟やコンテンポラリー・ダンスなど古今東西の動きを合わせて振付けました。本作は海外文化と伝統芸能、そして現代舞踊の結晶といえるかもしれません。同時上演の狂言『唐人相撲』は市民参加のプログラムです。

また、初夏には私自身が演出する木下順二作『子午線の祀り』があります。『平家物語』を題材にした戯曲で、群読という朗読形式を導入して壮麗な物語を伝えます。

10月には三軒茶屋の街を活気づける「三茶de大道芸」という催しを開きますが、この催しに関連して招くフランスの現代サーカス、カンパニーXYは幅広い年代のかたに楽しんでいただけそうです。

身体性をいかした表現といえば、初夏にはコンテンポラリー・ダンスの振付家でダンサーの勅使川原三郎さんが、『ABSOLUTE ZERO 絶対零度2017』を上演します。1998年に当劇場で踊った作品の進化型ですが、19年間に多くの国に招かれ、オペラの演出も担う勅使川原さんは、久しぶりに踊る世田谷パブリックシアターの空間をどう捉えるのでしょうか。

同じ劇場で8月末には、ダンスカンパニー・コンドルズを率いる近藤良平さんが、大人も子供も楽しめる新作を披露します。シェイクスピア作『間違いの喜劇』を私が狂言に翻案した『まちがいの狂言』に想を得た、『まちがいのコンドルズ」』(仮題)という愉快なパフォーマンス作品です。

私は芸術監督として「世田谷で創った作品を、地域から日本、世界に向けて同心円状に広げていくこと」を目指してきました。日本の伝統芸能を取り入れて演出したシェイクスピア作の喜劇と悲劇は、ともに海外で高く評価されました。喜劇は『まちがいの狂言』、悲劇は『マクベス』。ともに異なる文化を合わせて新しい表現を導き、「それまで、どこにもなかった演劇の創造」という目標を達成できました。国際的な緊張が高まる時代には、文化を通した対話が重要性を増していきます。

そこで、歴史や社会的な背景の違う人々の相互理解に通じる企画をそろえました。たとえば、海外の優れた戯曲を気鋭の日本人演出家が手掛けるシリーズ。夏にはドイツのヘルンドルフ原作『チック』を小山ゆうなさんが翻訳・演出。秋には英国のノーベル文学賞受賞作家、ピンターの戯曲『管理人』を森新太郎さんが演出。来春にはレバノン出身でフランス、カナダを拠点とするムワワド作『岸 リトラル』を上村聡史さんが演出します。

また、今年12月には兵庫県立芸術文化センターと共同制作で、日韓文化交流企画『ペール・ギュント』を上演します。ノルウェーの作家イプセンの戯曲を韓国のヤン・ジョンウンさんが演出し、日韓の俳優が協力し合うプロジェクトです。

来年の2月にはじまる私の出演作は井上ひさしさんが中国の文学者、魯迅と日本人の交流を描いた評伝劇『シャンハイムーン』。こちらはこまつ座との共同制作で、演出は栗山民也さんです。

(ラインアップ詳細はこちらを参照)

教育も公共劇場の大切な仕事

いっぽう、 世田谷パブリックシアターにおいて公演と並んで大切なのは、普及啓発・人材養成事業です。この両輪で「観客の育成、アーティスト・専門スタッフの発掘・育成」を続けてきました。「Jazz for Kids」「地域の物語」などの企画も、普及や教育に関わる事業のモデルケースとなる活動の成果といえます。

教育とエンターテインメントが一体になった企画は、将来の芸術愛好家を増やす先行投資みたいなものです(笑)。日本の文化を発展させていくためには、長い目で教育を考え、大人と子供が協力することが不可欠。作り手、演じ手、観客の三位一体がうまく機能しない限り、良い劇場は成り立たないでしょう。まだ劇場にいらしたことがないかたは、どうぞ、勇気を出して足を踏み入れてください。お待ちしています!

 

取材・文:桂真菜

2017年度ラインアップ・リーフレットPDF
2016年度ラインアップ・リーフレットPDF
2015年度ラインアップ・リーフレットPDF

野村 萬斎 のむら まんさい

1966年、東京都生まれ。狂言師。人間国宝・野村万作の長男。重要無形文化財総合指定者。2002年より世田谷パブリックシアター芸術監督を務める。国内外の能・狂言公演や舞台・映画出演はもとより、世田谷パブリックシアターでは『まちがいの狂言』など狂言の技法を駆使した舞台や、『国盗人』など古典芸能と現代劇の融合を図った舞台を次々と手掛ける。芸術監督就任後初の構成・演出作『敦 ―山月記・名人伝―』では朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞を受賞。構成・演出・出演を務めた『マクベス』は全国各地で上演を重ねるほか、海外公演(ソウル、ニューヨーク、シビウ、パリ)も果たした。