芸術監督・野村萬斎  撮影:渞忠之

芸術監督・野村萬斎  撮影:渞忠之


芸術監督 野村萬斎(のむらまんさい)

狂言師。2002年より世田谷パブリックシアター芸術監督。『まちがいの狂言』など狂言の技法を駆使した舞台や、『国盗人』など古典芸能と現代劇の融合を図った舞台を次々と手がけるほか、『マクベス』では全国各地、海外公演も果たした。自らの構成・演出作『敦─山月記・名人伝─』では朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞を受賞。新演出を手がけた20周年記念公演『子午線の祀り』では読売演劇大賞 最優秀作品賞、毎日芸術賞 千田是也賞を受賞。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザー。公益社団法人全国公立文化施設協会 会長。

「『生』の感動を持ち帰っていただく」劇場でありたい。

2021年度ラインアップリーフレットに掲載の世田谷パブリックシアター芸術監督 野村萬斎インタビューをお届けいたします。


「“生きている実感・喜び”を噛み締めることのできる劇場」でありたい

 未だコロナ禍の収束がみえない今日、「人が生きていること、死ぬこと」ということを切実に感じています。舞台芸術に接することで、“自分はやっぱり生きている”ということを体感できる「場」として、劇場の在り方を、もう一度捉え直す必要があります。舞台公演を目にして、今、生きていることに「感謝」し、そして、劇場からの帰路は、しっかりと大地を踏みしめている自分を認識できれば、生きていることを実感できるのではないでしょうか。
 舞台芸術というものは人間の在り方を描くといっていいでしょう。死を乗り越えた人間の世界観、社会の中で人間がどう機能するべきか、等々、その複雑な人間そのものを描くものです。舞台表現に接すること(=仮想)により、今生きている自分を知る(=現実)といった、リアルとバーチャルが交差することで、人間を、社会を、より知ることができるのが劇場であり、それが今、求められているのではないでしょうか。

「お客様の“勇気と覚悟”にお応えする劇場」でありたい

 これまで、「劇場を訪れる」ということを当たり前に感じていましたが、それは誤りで、実は一大決意であることと改めて認識しました。お客様は、まさに“勇気と覚悟”を持って、劇場においでくださっているのです。私たち劇場は、そのお客様に、今まで以上に敬意と感謝を持たなければいけません。そして、そのお客様の気持ちに応える劇場であり、演技でなければいけません。舞台芸術の創り手はそういう決意を持って、作品をプレゼンテーションしていくという気概が重要です。お客様との一種の緊張感というものを、劇場として共有したいと考えています。

「“生きている”ことをみんなで確かめ合う劇場」でありたい

 今やオンライン配信で、居ながらにして公演を楽しめますが、やはり「生」の良さにはかないません。生きている人間が演じ、それを生きている人間が観て、生きていることを実感する。その三つの「生きる」が成り立つことで、“生きている”ことを確かめ合えるのです。劇場に来てよかった、観てよかった、そう思ってくださる。「生」の感動を持ち帰っていただく。そのことに尽きるのです。
コロナ禍で分断されてしまっている社会生活の中で、みんなで何か共通するものを感じ合うことが望まれています。舞台芸術により、地域社会の中に人と人とがつながる集まりの「場」を生み出すことができると考えています。劇場に集う皆様と「みんな」という共同体をつくっていくことも劇場の仕事と思っています。

「“アップデートされたコンテンツ”を積極的に提供する劇場」でありたい

 劇場では、時代・社会に合った常に質の高い作品が求められています。創作の現場では、今必要とされているコンテンツを生み出すために、日々試行錯誤を繰り返しています。レパートリー作品をバージョンアップしたり、創り手においては、巨匠と新進気鋭をマッチングしてみたり、演出家、劇作家、役者やあらゆる表現者の人材育成にも余念がありません。
 また、若手演劇人育成プログラムとして、従来の演劇公演形態にとらわれない演劇創造の場を提供します。これまで地域社会に向けた演劇活動の取り組みで得た視点や手法・ノウハウを活かしていきます。私たちは劇場に培われたコンテンツを更新することに積極的に挑んでいきます。

 このコロナ禍を見据え、人間を豊かにする存在として、みんなの希望に満ちた劇場になることが原点と感じています。今年度のプログラムが決まりました。「生」の感動を分かち合いましょう。