芸術監督・野村萬斎  撮影:渞忠之

芸術監督・野村萬斎  撮影:渞忠之

芸術監督 野村萬斎(のむらまんさい)
狂言師。2002年より世田谷パブリックシアター芸術監督。『まちがいの狂言』など狂言の技法を駆使した舞台や、『国盗人』など古典芸能と現代劇の融合を図った舞台を次々と手がけるほか、『マクベス』では全国各地、海外公演も果たした。自らの構成・演出作『敦─山月記・名人伝─』では朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞を受賞。新演出を手がけた20周年記念公演『子午線の祀り』では読売演劇大賞 最優秀作品賞、毎日芸術賞 千田是也賞を受賞。東京2020オリンピック・パラリンピックの開閉会式のチーフ・エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターを務める。

“過渡期”ならではの実験、挑戦から 新たな舞台芸術表現を見出す

2019年度ラインアップリーフレットに掲載の世田谷パブリックシアター芸術監督 野村萬斎インタビューを届けいたします。


 開場から20年あまり、世田谷パブリックシアターは、今、新たな局面を模索する過渡期に差し掛かっているように感じます。この劇場がここまで、日本の舞台芸術の先頭を走ってこられたのは、芸術に理解の深い、区民の方々のエネルギーに支えられてきたからです。ただ、そうして築かれてきたものも、時間の経過と共に次第に洗練され、一種の落ち着きをもつようになる。これからは、これまでと同様のニーズにも応えつつ、さらにそこからジャンプする、時にはお客さまを挑発するようなものづくりもしていかなければならないのではないかと考えています。

 2019年度に新作を発表していただく前川知大さん、倉持裕さんは共に劇作・演出家として、今、非常にノッている方々です。昨年の『The Silver Tassie 銀杯』に引き続きご登場いただく森新太郎さんもまた、さまざまな挑戦をしつつ、あえて自身のスタイルを崩そうする気概をもっている。ですから皆さん、よく時代を見極めた「過渡期の作品」として意義あるものをつくってくださるのではないでしょうか。なかでも倉持さんの作品は、これまでのシアタートラムではなく、今回初めて、パブリックシアターで上演されることになりました。小劇場の空間は、人物同士の関係性だけでも埋められる。しかし、中劇場になると、もうひとつ演出家自身の眼差しを広げなくてはならない。前川さんが初めてパブリックシアターで作品をつくられた時(2011年『奇ッ怪 其ノ弐』)には、ベテランの美術家・堀尾幸男さんとのコンビが成功を呼びました。今回もそういった新しい出会い、事件が起こる可能性を探りたいですし、お客さまには是非、その瞬間に立ち会っていただきたいと思います。

 一方、再演となるケラリーノ・サンドロヴィッチさんの『キネマと恋人』、小山ゆうなさん演出の『チック』も、世田谷パブリックシアターらしい、再演の価値ある作品です。『キネマと恋人』は、時代劇という映像文化と演劇とを融合させたKERAさんの意欲作で、初演はシアタートラムでの上演でしたが今回は「是非、パブリックシアターで」とお願いしました。また『チック』は全国公演も予定しています。こうして過去の世田谷発の作品を、その時々に変容させながら上演するのも重要です。それが劇場の「財産」ということですし、今後はさらにその中から、大きな劇場でロングランする作品が出たり、あるいは学校での巡回公演が生まれたりするような展開もあるといいですね。

 また、近年では、ワークショップやレクチャーなどを通し、さまざまなかたちで劇場、演劇と地域とを結びつける活動が全国的に広がっています。世田谷パブリックシアターは専門の学芸担当を置いてこうした活動に携わってきた先駆者でもあり、これからも『地域の物語』シリーズ、『世田谷アートタウン』をはじめとする独自の活動に取り組んでいくつもりです。

 現代の社会の流れには、どうしても、「わかりにくくて説明が必要なものはダサい」とか「面倒は避けたい、勉強はしたくない」という傾向を感じてしまいます。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく……」とは、井上ひさしさんの名言ですが、確かにそれにはかなりの経験値が必要です。とはいえ、やっぱり私は、演劇は「言葉」であるとも思っています。言葉によってつづられた観念をどのように舞台上で視覚化、聴覚化するか。舞台のつくり手の人たちには、まず、その限界に挑んでほしい。たとえば映像などのテクノロジーを使って簡単に説明する手法もあるでしょう。でも、そこをあえて禁欲して発見するものだってあるはずです。そういう「わからなさ」「不便さ」をめぐる実験やもがきの中から、新しい舞台芸術表現のあり方を発信していく。その挑戦の姿勢が、世田谷パブリックシアターならではの「色」になるといいなと思います。

[取材・文 鈴木理映子]

 

 

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