ワークショップ・レクチャー

『ワークショップ論―演劇ワークショップの力』
パブリックシアターのためのアーツマネジメント講座2009

「ワークショップ」という言葉も珍しくなくなり、いまや劇場や文化施設、学校など、地域のさまざまな場で実践されるようになりました。こうした地域への活動の広がりと共に、ワークショップのバリエーションも増え、ワークショップそして演劇ワークショップの捉え方も多岐にわたるようになってきています。
本講座では、ワークショップの本質について改めて捉えなおし、演劇活動とワークショップの関係について再考することを目指します。同じ問題意識を持つ皆さんが出会う場にもなるように、1日2講座ずつスケジュールしています。最後には共に話し合いを進めていく場も設けたいと思っておりますので、みなさまふるってご参加ください。

 
 
日程 (1) 「ワークショップ概説?理論と広がり?」
2009年12月13日(日)16時~18時
講師:高尾隆(東京学芸大学芸術・スポーツ科学系音楽・演劇講座演劇分野特任准教授)

(2)「演劇とワークショップ」
2009年12月13日(日)18時45分~20時45分
講師:熊谷保宏(日本大学芸術学部准教授)

(3) 「アウグスト・ボアール『試みの演劇』の成立背景―ラテンアメリカ民衆演劇運動とブレヒト受容―」
2009年12月20日(日)13時~15時
講師:里見実 (國學院大學非常勤講師)

(4) 事例紹介
2009年12月20日(日)
15時45分~16時45分 「ブラジル市民生活におけるボアール演劇」
講師:辻朋子 (ボアール研究、演劇ワークショップコーディネーター)

17時~18時 「『人間彫刻』で織り成す井戸端会議!? ~宝塚フォーラムシアタークラブの6年~」
講師:松田裕樹 (「楽しく変化を起こす劇的ワークショップ」ファシリテーター)

(5)「PETAサマーワークショップ―フィリピンで1週間缶詰の演劇ワークショップ」
2010年1月23日(土)13時~15時
講師:菊地敬嗣 (PETAサマーワークショップ実行委員会)

(6)「農村生活改善運動と演劇・ワークショップ」
2010年1月23日(土)15時45分~17時45分
講師:片倉和人 (NPO法人農と人とくらし研究センター代表理事)

(7)「演劇ワークショップの実践報告とそこからみえてくる可能性~水俣、そしてアチェ(インドネシア)での経験を中心に」
2010年1月24日(日)13時~15時
講師:花崎攝 (演劇デザインギルド)

(8)ディスカッション
2010年1月24日(日)15時45分~17時45分
 
 
内容 (1) 「ワークショップ概説?理論と広がり?」
ここ十年ぐらいでワークショップという言葉は市民権を得て、公的機関も含め、いろいろな場所でおこなわれています。しかし、そもそもワークショップとは何なのでしょうか? これは研究的にはまだまだはっきりしていないところです。ワークショップは20世紀前半から世界中で同時多発的に起こってきたムーブメントのようです。そこには近代社会に対する共通した批判的な意識があるのではないか? これが私の仮説です。ワークショップがどのように生まれ、どのように広まっていったのか?そこを探求していくことで、現在おこなわれているさまざまなワークショップをとらえる試みができればと思います。

(2)「演劇とワークショップ」
演劇の現場において「ワークショップ」はもはや日常的なボキャブラリーであるといってよい。が、その指すところはかならずしも一様ではなく、実にさまざまな時には相反するようなタイプの活動がワークショップとまとめ称されているという現実もある。このような現実の背景にあるワークショップという枠組みおよび方法論の進化は、演劇そのものの在りようおよび社会的な立ち位置の変化というもうひとつの背景とも無関係ではない。演劇(の現場)とワークショップのいささか込み入った関係性を歴史的ならびに現象的に整理する。

(3) 「アウグスト・ボアール『試みの演劇』の成立背景―ラテンアメリカ民衆演劇運動とブレヒト受容」 初期のボアールはワークショップを「試みの演劇」と呼んでいますが、ensayoは単純に「稽古」のことでもあります。作品の公演だけでなく、稽古場の経験を公衆とシェアすることこそが重要であるという思想がこめられていますが、これはブレヒトの「教材劇」(普通は教育劇と訳されていますが)の実験を、ブラジル(あるいはラテンアメリカ)の民衆文化運動の渦中で批判的に発展させたものでもあります。出来上がった作品の公開や流通よりも、人々の自己表現を可能にする[言語」と「作法」を公開し手渡すことを志しているのですが、その活動を通して演劇集団の作法と在り方そのものを変えようとしています。併行するかたちで展開しているパウロ・フレイレの識字運動の影響も顕著です。このあたりの事情を、多少なりとも紹介できればと思っています。 ※限られた時間で活動の具体的な内容をお話するのは困難ですので、ボアールワークショップの実際を記した彼の文章の一部を資料として用意します。あらかじめご一覧ください。

(4) 事例紹介
「ブラジル市民生活におけるボアール演劇」
ボアール演劇では、「ファシリテータ」という言葉は使われませんが、仕掛け人的役割の人を「ジョーカー」といいます。ボアール演劇の理念や、複雑な経緯はジョーカーという言葉にもよく表れています。1990年代に始まった法案起草演劇では、ジョーカーは演劇を通して、市民に法案の提出を呼びかけ、実際に重要な法律が制定されました。1960年代は文化発信者として、そして1990年代以降の市民活動家として、ボアールがブラジルで行ってきた活動を紹介したいと思います。

「『人間彫刻』で織り成す井戸端会議!? ~宝塚フォーラムシアタークラブの6年~」
03年、市民グループの依頼を受け、月1回のワークショップを半年続けて「フォーラムシアター」(観客参加型の「討論劇」)を上演しました。参加者の一部が活動の継続を希望し、月1回の活動が6年以上続いています。内容は変化して、現在は、「人間彫刻」という手法を活用し、身近で起きる問題の解決策を語り合う場になっています。主婦を中心に開催されてきた場は、井戸端会議のような雰囲気もあります。ボアールの手法である「フォーラムシアター」や「人間彫刻」が、そこでどのように実践されてきたのか、お話したいと思います。

(5)「PETAサマーワークショップ―フィリピンで1週間缶詰の演劇ワークショップ」
PETAは1967年に結成され、40年以上の歴史を持っています。また70年代から日本の演劇集団、社会運動と協力関係を持っていて、その影響は広く深いものがあります。この講座では97年から開始した日本から8月に1週間フィリピン現地で行うワークショップを中心に、その切っ掛けと考えられるPETAメンバーの95年前後の日本での活動や現在のPETAの活動状況についても、ご紹介できればと思います。そして今後の協力関係の発展についても、少し考えていきたいと思います。

(6)「農村生活改善運動と演劇・ワークショップ」
戦後スタートした生活改善普及事業は農林省の中では異質な事業で、アメリカ流のプラグマティズムの哲学に基づいていた。その中で行われた「生活総合実習」は、一種の演劇ワークショップの試みだったといえる。私は、フィリピンでPETAに出会い、199 9年に日本に戻ってから、農村開発や普及活動のなかで演劇ワークショップを活用してきた。そうした経験も踏まえて、プラグマティズムの思想の側から演劇やワークショップの意義を捉えてみたい。

(7)「演劇ワークショップの実践報告とそこからみえてくる可能性~水俣、そしてアチェ(インドネシア)での経験を中心に」
アジアや南米の演劇活動に学びながらおこなってきた演劇ワークショップの活動のなかから、水俣病公式確認50年事業としておこなった胎児性水俣病患者と市民との協働事業とそこから生まれた作品「水俣ば生きて」。さらにそこから立ち上がった世田谷での障害者との演劇活動について報告します。また、30年に渡って紛争が続いていたインドネシア・アチェで、紛争被害にあった子どもたちへのケアから、平和構築、地域の復興事業につながりつつある活動について報告します。日本ではあまり語られることのない演劇ワークショップと政治のかかわりについて、またワークショップの場における権力の発動についても触れたいと思います。

(8)ディスカッション
本講座のいずれかにご参加頂いた方たちと共に、演劇ワークショップを取り巻く環境などについて意見交換のディスカッションセッションを行います。(無料・本講座参加者対象)
 
 
場所 (1)(2)ワークショップルーム(キャロットタワー4階)
(3)~(8)セミナールーム(キャロットタワー5階)
 
 
講師 《プロフィール》
●高尾隆
東京学芸大学芸術・スポーツ科学系音楽・演劇講座演劇分野特任准教授。博士(社会学)。専門は演劇教育、インプロ(即興演劇)。学校、劇場、企業、地域、福祉施設などにおいてインプロ・ワークショップを行っている。著書に『インプロ教育』(フィルムアート社)、『クリエイティヴ・アクション』(共著,フィルムアート社)など。

●熊谷保宏
1967年東京生まれ。高校教師などをへて現在日本大学芸術学部演劇学科准教授。応用演劇研究、演劇教育関連の講座、ゼミナールを担当。一方、各地で各種の演劇上演やワークショップ、またアートプロジェクトを展開。著書に『ワークショップで何ができるか』(共著、芸団協出版)。NPO法人スキッツ・プラス監事。小平市在住。

●里見実
教育学専攻。中心領域は学習論、社会科教育論、開発教育論などだが、国学院大学退職後はラテンアメリカを中心にした民衆文化運動の翻訳と紹介に仕事の重点をシフトしている。著書『ラテンアメリカの新しい伝統』(晶文社)、『学ぶことを学ぶ』(太郎次郎社)、『学校でこそできることとは、なんだろうか』(同)、『タイの農村再生運動に学ぶ』(農文協)、『パウロ・フレイレ「被抑圧者の教育学」を読む』(太郎次郎社)ほか。訳書にボアール『被抑圧者の演劇」(共訳 晶文社)、フレイレ『希望の教育学』(太郎次郎社)など。

●辻朋子
大学、大学院で演劇学を専攻。学生時代、リオデジャネイロの「被抑圧者の演劇センター」を訪ね、法案起草演劇フェスティバルに参加。メソッドを学ぶとともに、背景にある社会、文化について調査をする。修士論文のテーマは『アウグスト・ボアールの演劇における「ジョーカー」の概念と実践』。現在、学校講師。

●松田裕樹
1971年生まれ。自治体職員として勤務中の1997年、「フィリピン教育演劇協会」(PETA)のワークショップに出会い、それをきっかけに、「フォーラムシアター」などのボアールの手法に興味を持つ。フィリピンやカナダなどでのトレーニング・ワークショップを経て、2000年頃から、ファシリテーターとして関西を中心に活動中。

●菊地敬嗣
1993年フィリピン大学の演劇グループと交流の機会があり、社会的演劇活動に関心を持つ。1995年日本滞在中のフィリピン教育演劇協会(PETA)のメンバーのワークショップや公演に関わった。1997年以降、毎年8月にフィリピン現地でPETAが主宰するサマーワークショップ企画を継続して実施している。

●片倉和人
1955年生まれ。農林水産省の外郭団体に研究員として勤務中、1996年から3年間JICAのフィリピン農村生活改善プロジェクトに派遣され、PETAの協力を得て活動計画づくりに、村人による「ビジョニング・ワークショップ」を導入した。2007年に在野の研究機関を設立し、現在は郷里の長野県岡谷市に在住。

●花崎攝
劇団黒テントを経て、公演活動とともに、特に障害者や女性、子どもなど社会的に弱い立場にある人々とのワークショップ活動を多数主宰。最新の舞台作品(構成・演出・出演)は、『女/鬼 女たちのコラージュ』(コロンビア国際女性演劇祭招へい作品)。日本大学芸術学部、武蔵野美術大学非常勤講師。企業組合演劇デザインギルド専務理事。2007年国際交流基金が実施した「アチェの子ども達と創る演劇ワークショップ」と「アチェ子ども会議」に演劇専門家として参加。 ホームページはこちら
 
 
参加費 (1)~(7)各回共に1500円、9000円(全日参加)
(8)はそれまでの参加者対象で無料
 
 
募集人数 20名
※先着順に受付いたしておりますが、万が一定員に達してご参加いただけない場合はご連絡いたします。
 
 
申込み方法 以下申込みフォームか、または劇場(03-5432-1526)までお申込みください。
 
 
お問合せ 世田谷パブリックシアター学芸 03-5432-1526
 
 
備考 [助成] アサヒビール芸術文化財団
平成21年度文化庁アートマネジメント重点支援事業
 
 
受付は終了致しました。
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